大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(う)2487号 判決

被告人 北沢勇一

〔抄 録〕

被告人の控訴趣意竝びに弁護人の控訴趣意第一点について。

原判決は被告人の判示第一、の強盗の事実を認定する証拠として、一、証人山本万五郎の当公延における供述及び同人に対する証人尋問調書中の供述記載二、当審検証調書(添附図面及び写真の全部を含む)中の記載三、司法警察員の実況見分調書(添附図面全部を含む)中の記載及び司法巡査中島一十撮影の写真(説明文を含む)全部の記載四、被告人の昭和三一年二月二七日附検事に対する供述調書中の供述記載を挙示しているのである。しかし原判決の引用する右証人山本万五郎の原審公判廷における供述及び同人に対する証人尋問調書中の供述記載は、当審証人山本万五郎の当公廷における、自分は第一審公判廷では水上警察署で面通しされたときの被告人の顏が浮び、且つ被告人が警察官に連れられて来たので、警察官に連れられて来るところからみると犯人に違いないのかと思い被告人が犯人であると供述したが、今ではその犯人は面長であつたのに被告人は丸顏であり、犯人は被告人よりもつとスタイルがよかつたので被告人は犯人と違うように思うとの旨の供述に徴し措信し難いものと認められるのであり、又原判決の引用する被告人の昭和三一年二月二七日附検事に対する供述調書は被告人の原判示第一、の強盗事実の自白調書であるが、当審において検察官の提出した北沢勇一電報綴、被告人作成の窃盗、強盗事実一覧表、当審証人湯山巍、同居木井為五郎、同神田両三郎、同山本万五郎の当公延における供述によれば、被告人は昭和三一年一月中水上警察署において取調を受け、山本万五郎が昭和三一年四月二五日被害を受けた本件強盗事件を含めて約二〇件の強盗事件を自白したが、その後同年四月頃警視庁においてその自白した強盗事件について取調を受けたところ、その自白にはいずれにも確固たる裏付証拠なく、そのうちには既に犯人の検挙済のものもあつたものであり、本件強盗事件においても山本万五郎は前同日被害直後犯人の人相服装として年令二〇年位、身長五尺一寸、髮オールバツク、学生服、紺レインコートの男として届出ているのであるが、被告人は同年四月当時髮をオールバツクに伸してはおらず、学生服を所持せず、国防色の駐留軍用ズボンを紺色に染めたものを着用していたものであつて、本件強盗事件発生の翌日である同年四年二六日には足立公共職業安定所の紹介により就労していることを認めることができるのであるから、これらの事実に徴し前記被告人の検事に対する供述調書記載の自白も亦信用し難いものと認められるのである。従つて原判決の認定した被告人の判示第一、の強盗の事実は、その挙示の証拠によつては到底これを認めることができないことに帰着するものといわねばならないから、原判決が判示第一、の強盗を被告人の犯行として認定したのは事実を誤認したものであり、この事実の誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることはもちろんである。しからば原判決の事実誤認を主張する論旨は理由がある。

(加納 吉田作 山岸)

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